口は健康の入り口

先日、俳優の渡辺徹さんが61歳の若さで亡くなられたというニュースを見た。原因は敗血症。記事を読んでみると、11月20日に細菌性胃腸炎と診断され、その後敗血症の診断に至り、11月28日に回復することなく亡くなったという。入院から亡くなられるまで8日、あっという間の出来事であろう。

渡辺さんは30代で2型の糖尿病と診断され、そこから生活習慣の改善などにも取り組んでいたとのことだが、動脈硬化による虚血性心疾患の発症や、糖尿病からくる慢性腎不全で人工透析を受けていたり、昨年には大動脈狭窄症を起こすなど常に病に悩まされていたとのことであった。

糖尿病は多様な合併症を引き起こす。動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などの血管疾患、腎機能の障害が重症化すると腎不全に陥り、透析が必要になる。その他にも網膜症や神経の障害なども起こしやすくなり、まさに全身に影響を及ぼすのである。

糖尿病に関して私たち歯科医師も目をつぶることはできない。歯周病は糖尿病の第6番目の合併症とされている。糖尿病に罹患すると、歯周病を引き起こしやすく、歯周病治療が奏功しずらく治りにくい。

さらに、詳しいメカニズムはいまだ解明されないが、歯周病巣から放出されるLPS(歯周病菌由来の毒素)やTNFα(炎症を引き起こすもの)は脂肪組織や肝臓のインスリン抵抗性を増加させ、血糖値を上昇させる。

まさに相互に悪影響を及ぼすものなのである。

糖尿病だけではない。口の中の細菌が他臓器に入ると誤嚥性肺炎や心内膜炎などを引きを起こし、今回のように免疫機能が低下している場合、敗血症を引き起こしてしまうのだ。

歯科にはこういう言葉がある『口は健康の入り口』

口の中の細菌はゼロになることはないが、ご自身のセルフケアと歯科医院でのプロフェッショナルケアでコントロールすることはできる。

つまり口腔ケアを行うことで様々な疾患のリスクを抑えることができるのだ。

今回このように悲しいことが起こってしまったが、是非皆さんも他人ごととは思わず、少し違った目線でとらえていただけたらと思う。

最後になりましたが、心より渡辺徹さんのご冥福をお祈りしたいと思います。

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